清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ――久留島に何かあれば、自分の想いを犠牲にしても、守りにくる可能性はあるということか……。


 東雲は目を細めると、食事を頬張る白戸の姿をただ静かに眺めていた。


「今日はご馳走様でした」

 白戸の上機嫌な声が歩道に響く。

「東雲社長。さっさと久留島さんのこと、奪っちゃってくださいね。そうすれば、私はもう安心ですから!」

 白戸はそう言うと、ほろ酔いの足取りも軽やかに、駅に向かって去って行った。

 東雲の登場で、きっと自分の恋の成就を確信したのだろう。

 白戸はあの後は、たがが外れたように好き放題注文していた。


「社長、彼女に勝手させてよろしいのですか?」

 さすがに見かねたのか、斎藤が横から口を挟んだ。

「まぁいいさ。二、三回使わせて、後は締め出せばいい。それよりも……」

 東雲は顎に手を当てると、くすりと肩を揺らす。

「彼女はなかなかに鋭いようだね」

 東雲は身を翻すと、運転手の開けた後部座席の扉から、車の中へと入っていった。
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