清くて正しい社内恋愛のすすめ
「どうしたんだよ。急に」

 加賀見はそう言いながらも、穂乃莉を腕でギュッと抱きしめる。

 穂乃莉はしばらく加賀見の温度を確かめるように、首元に顔をうずめていたが、くすくす笑い声を立てるとゆっくりと加賀見を見上げた。


「あのね……」

 穂乃莉はそっと身体を離し、手に持っていた紙袋を差し出そうとしてぴたりと止まる。

 加賀見は両手にいくつもの紙袋をぶら下げているのだ。


「どうしたのそれ……? すごい量……」

 穂乃莉は目を丸くしながら袋を覗き込む。

 色とりどりの紙袋は、小さいものもあれば、明らかな高級店のロゴ入りのものまでさまざまだ。


「いや、研修のあとにさ、みんながチョコくれて……」

 加賀見は肩をすくめると、途端にわざとらしく横を向く。

「俺もバレンタインなんてすっかり忘れてたけど、きっと誰かさんも、すっかり忘れてんだろうなとは思ってた」

 加賀見の横顔がにやりと動き、穂乃莉は顔を真っ赤にすると下を向いた。


「お、おっしゃる通りです……」

「どうせ宮原あたりに怒られたんだろ? 『穂乃莉さんは、自覚が足りなさすぎます』とか言われてさ」
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