清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ――もしかして、口に合わなかったとか……?


 このチョコレートを見た瞬間、絶対に加賀見は気に入ると思ったのだが、味見をせずに買った自分に今更ながら後悔が押し寄せる。


「ねぇ……いまいちだった……?」

 再び顔を覗き込む穂乃莉に、加賀見は「うーん」とうなり声を上げた。

 やっぱり好みではなかったのかも知れない。


「穂乃莉も、味見してみる?」

 加賀見が眉間に皺を寄せながら、遠慮がちに聞いた。

「う、うん……」

 ぎこちなく頷いた瞬間、穂乃莉の唇にはチョコレートではなく、加賀見のキスが降ってきた。


「ちょっ……と」

 穂乃莉は抵抗する間もなく、加賀見に抱きすくめられる。

 誰もいないフロアに、静かに響くキスの音。

 加賀見の熱に絡んだビターチョコレートのほろ苦い甘みと、ブランデーのほのかな香りが鼻をぬける。

 穂乃莉はその甘い香りに、まるで眩暈(めまい)がするようにふわふわと身体を揺らした。


 しばらくして、チュッと音をたてて唇を離した加賀見は、にんまりと口元で弧を描く。

「な? すごく美味しいだろ?」

 腹黒王子の顔を覗かせる加賀見に、穂乃莉は頬を真っ赤にすると、グーにした手で加賀見の肩を小さく小突く。
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