清くて正しい社内恋愛のすすめ
「若い時期は今しかないのに、家に縛り付けるのは酷だものね」

 嘉代は一人娘だった穂乃莉の母を思い出す。


 幼い頃から病気がちで、若者の楽しみを経験もせず過ごしてきた娘。

 それがある日突然、大人しそうな青年を連れて嘉代の元へやってきた。

 学校の同級生だったという彼は、近くの由緒ある旧家の次男坊で、穏やかで寡黙な青年だった。

 そんな二人が嘉代に頭を下げたのだ。

「久留島の将来のために、結婚させて欲しい」と。


 程なくして二人は結婚し、穂乃莉が生まれた。

 そして穂乃莉という跡継ぎが生まれた途端、あっけなく娘は逝ってしまったのだ。


「あの子にも、久留島の重圧をかけていたのね……」

 娘が幸せだったのか、本当に望んだ結婚だったのか、今となっては何もわからない。


 穂乃莉には、そんな重圧はかけたくない。

 でも、巨大になりすぎたグループと従業員を守るためには、穂乃莉を頼りにするしかないのは事実。

 優しすぎる穂乃莉の父には、社長業は任せられない。

 今は本社の専務に就いているが、それ以上は厳しいだろう。


 だからこそ、久留島の今後を考えたら、穂乃莉の結婚相手は慎重に決めなければいけないのだ。
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