清くて正しい社内恋愛のすすめ
「穂乃莉さん、三番にお電話です。正岡さんって方からですけど、わかりますか？」

　その名前を聞いた途端、穂乃莉は「え……！？」と声を上げた。

　慌てて自分のスマートフォンを確認すると、正岡や本店の電話番号からの着信が複数件入っている。

　ランチ中はスマートフォンを鞄に入れっぱなしにしていたから、気がつかなかったのだ。


　それにしても正岡が電話をしてくるなんて、ただ事ではない。

　穂乃莉はすぐにデスクの受話器を取り上げた。

「も、もしもし、正岡？」

　いつもと違う動揺した穂乃莉の様子に気がついたのか、加賀見もみんなと顔を見合わせながらこちらを見ている。


「穂乃莉お嬢様」

　受話器の奥から、正岡のいつになく緊張した声が聞こえた。

「落ち着いてお聞きください。先ほど社長がお倒れになって……できればすぐにこちらへ戻っていただきたいのです」

　正岡の言葉を聞いた途端、穂乃莉は目を見開くと、固まったように動けなくなる。

「おばあさまが……倒れた……！？」

　穂乃莉は独り言のように、小さく繰り返した。

　それでもその声に、はっと息をのむ加賀見たちの様子が目線の端に映る。
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