清くて正しい社内恋愛のすすめ
 そんな穂乃莉の様子に気がついた加賀見が、信号待ちの車内で顔を覗き込ませると、穂乃莉の手をギュッと掴んだ。

「穂乃莉、顔を上げて。俺のこと見て」

 加賀見の低く穏やかな声に、穂乃莉ははっとすると顔を上げる。


「穂乃莉。お前のことは、俺が守ってやる」

「加賀見……?」

「何かあれば、すぐに駆けつけてやるから。だから安心して、今はとにかく一刻も早く実家に帰ることだけを考えるんだ」

 加賀見はそう言うと、握った手にさらに力を込めた。


 加賀見の大きな手に包まれて、不安でたまらず早いスピードで鳴り響いていた鼓動が、次第に落ち着きを取り戻していく。

 穂乃莉は加賀見の手を握り返すと、力強くうなずいた。

「ありがとう。加賀見」

 車はちょうど駅前に到着し、加賀見がキュッとサイドブレーキを引く。


「気をつけて行って来いよ」

 加賀見は穂乃莉の頬に優しく手で触れると、そっとキスをした。

 加賀見のキスはやっぱり魔法だ。

 穂乃莉は安心した顔で力強くうなずくと、助手席の扉を開けサッと足を出す。

「行ってくるね」

 穂乃莉は落ち着いた顔を覗き込ませた後、バタンと扉を閉じると、加賀見に見守られるのを感じながら、改札口に向かって駆け出した。
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