清くて正しい社内恋愛のすすめ

不測の事態

「穂乃莉お嬢様!」

「お嬢様が戻られました! すぐに正岡さんに連絡を!」

 穂乃莉が本店の入り口に着いたのは、ちょうど日が暮れたあたりの時刻だった。

 玄関を駆け込んで来る穂乃莉の姿を見かけた途端、泣きそうな顔をした従業員が一斉に駆け寄る。


「おばあさまは!?」

「寝室でお休みになられています。お医者様は先ほど帰られて、今は正岡さんが付き添っておいでです」

「わかった。みんなありがとう」

 穂乃莉は手短にそう言うと、駆け足で祖母の寝室に向かった。


 寝室は本店の居住スペースの一番奥に位置している。

 穂乃莉は部屋の前まで来ると、一旦上がった息を整えるように胸に手を当てる。

 扉をノックしようと片手を上げると、同じタイミングでスッと扉が開かれた。


「お嬢様、お帰りなさいませ」

 顔を覗かせたのは正岡だ。

 穂乃莉は正岡に案内され、ベッドサイドのランプだけが照らされた、ほの暗い寝室へと入る。

 祖母は落ち着いた様子で眠っているようだった。


 穂乃莉はベッドサイドに近づくと、祖母の顔を覗き込む。

 祖母の息づかいは一定で、深い眠りに落ちているように見えた。

「今は薬でお休みになられています」

「そう……」

「お医者様が言うには、一時的にストレスがかかったことによるものだろうと。ただ一度検査した方が良いとのことで、明日病院へ入院される予定です」

「そんな……」
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