清くて正しい社内恋愛のすすめ
「嘉代さん。私らはもう我慢できませんよ! 一体この地域をどうしようって言うんです!」

 突然社長室に怒鳴り込んできた経営者たちの剣幕に、嘉代は何のことかわからずに首を傾げる。

 入って来た面々は、長年この温泉街を共に支えてきたいわば同志のようなもの。

 でも今は、嘉代を憎らしいものでも見るかのような目つきで睨みつけている。


「嘉代さん、あんまりじゃないかね。長年一緒にこの温泉街を守ってきたというのに……」

「今回のおたくのやり方に、私らはもう(はらわた)が煮えくり返っとるんよ!」

 正岡と顔を見合わせる嘉代の様子はよそに、経営者たちは口々に声を出した。

 何度も机を拳で叩かれ、嘉代は驚いた顔のまま呆然とするだけだ。


「これ以上、土地を買い漁ってどうしようって言うんだね?」

「こんな立派な本店があるのに、まだ足りないとは。どこまで強欲なのか……」

 経営者たちの暴言は、一向にとどまるところを知らない。

 全く理解できない話に、嘉代は静かに立ちあがると、一旦制止するように大きく手を広げた。


「皆さん、ちょっと待ってください。全く状況が飲み込めないのですが、一体どういうことですか? うちは皆さんと協力してこの地域を盛り上げようと……」
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