清くて正しい社内恋愛のすすめ
「忠則兄さま……? ちょっと待って、ちゃんと説明して! あの人って誰!?」

 穂乃莉は忠則の様子にゾッとすると、かすかに震えながら立ち上がる。

 その時、寝室の扉に静かなノック音が響いた。


「それは私からご説明しましょう」

 フロントの従業員に案内され、室内に入ってきた人物を見て、穂乃莉は驚いて目を丸くする。

「東雲さん……? あなたが、どうしてここへ……?」

 穂乃莉の声に、祖母とその側にいた正岡も息をのんで顔を上げた。


 東雲は穏やかな笑顔を見せながら、穂乃莉の前に寄る。

「穂乃莉さん、お久しぶりですね」

 そのほほ笑んだ瞳の奥を覗いて、穂乃莉はドキリとした。

 東雲の瞳はひどく冷たく、そして鈍く光っている気がしたのだ。


「久留島社長、ご無沙汰しております。夜分遅くに押しかけまして、申し訳ありません。忠則さんから連絡を頂戴しまして、駆けつけた次第です」

 東雲は恭しく頭を下げる。

「東雲社長、これはどういうこと……?」

 祖母は目を細めると、小さく首を傾げた。

「実は数週間前、久留島不動産が立ちいかない状況だという話を伺いまして、それでしたらとご提案させていただいたのです」

「なんですって?」
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