清くて正しい社内恋愛のすすめ

もうひとつの真実

 シャワーを浴び終えた加賀見は、バスタオルを首にかけながらキッチンへと向かう。

 髪の毛から滴る水滴をタオルで拭いながら、冷たい水をコップ一杯飲み干した。

 そのままダイニングテーブルに置いてあるスマートフォンを手に取ると、リビングのソファに深く腰かける。


 息をつきながら画面を覗き込むが、新着のメッセージは入っていなかった。

 穂乃莉からは「もうすぐ実家に到着する」という連絡が入って以降、何も音沙汰はない。

 社長である祖母が倒れたのだ。

 きっと向こうもバタバタとしているはず。

 何かあれば駆けつけるとは言ったが、しばらくは穂乃莉の連絡を待った方が良いだろう。


 別れ際の穂乃莉の顔を思い浮かべていた加賀見は、突然音をたてたスマートフォンに驚くと、すぐに画面に目線を落とした。

 表示されているのは母親の名前だ。

 加賀見は小さく首を傾げながら、画面をタップする。


「もしもし? 陵介?」

 相変わらず元気そうな母の声が、スピーカーから漏れ聞こえる。

 加賀見は小さくほほ笑むと、スマートフォンを耳にあてた。


「どうしたんだよ、急に。そっちはまだ朝早いだろ?」

 加賀見は壁にかかっている時計を見上げた。

 時差を考えると向こうは早朝といったところか。
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