清くて正しい社内恋愛のすすめ
「早いったってもう6時よ。これからお父さんと朝のウォーキングに出るところ」

「相変わらず仲が良さそうで安心したよ」

 加賀見の声に、母のくすりと笑う様子が伝わる。

 他愛もない日常の会話をした後、母は一瞬ためらいつつ、少しだけ硬い声を出した。


「あのね。今日は陵介に、大事な話があって電話したの」

「大事な話?」

「そう……」

 母は一旦口を閉ざすと、深く息を吸ってから静かに声を出した。


「あなたはお父さんが……加賀見が実の父親じゃないって知ってるわよね」

「まぁ、知ってるけど?」

 加賀見は幼い頃、何の疑いもなく父親だと思っていた人と、血のつながった親子ではないと知り、ショックを受けた日のことを思い出す。


 ――あの頃しばらくは、父さんの顔をまともに見られなかったんだよな。


 加賀見は小さく息をつく。

 それでも加賀見の父は、その後も変わらずに接してくれたし、たくさんの愛情を注いでくれた。

 その父のおかげもあって、加賀見の心は次第にほぐれ、二人の関係は元に戻ったのだ。

 今となっては、それも懐かしい思い出だ。


「今更どうしたんだよ?」

 首を傾げる加賀見に、母は「あのね」と声を出す。
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