清くて正しい社内恋愛のすすめ
「あなたには黙っていたんだけど、お母さんと前の夫の間には、もう一人男の子がいるの」

「……は?」

「陵介より五歳上、あなたのお兄さんよ」

 加賀見は思わず言葉を失った。

 そんな話、今まで一度も耳にしたことがない。

 あまりの衝撃に、何と口を開いたらいいかわからず戸惑っていると、母のかすかな息づかいが聞こえた。


「驚いたわよね……。ごめんね……」

 それからしばらく、加賀見も母も口を閉ざす。

 スピーカーの奥からは、ワンワンという実家の犬の鳴き声と、父のたしなめる様な声が聞こえていた。

 ぼんやりとその声に耳を傾けていると、母が小さく息を吸った。


「前の夫、陵介のお父さんはね、大きな会社の社長だったの。私とは当然身分違いの恋だった。うまくいくはずがなかったのよ……」

 母の話に加賀見は目を丸くする。

 今まで実の父について知りたいと思ったことはあったが、加賀見の父への遠慮もあり、どんな人物なのかは聞いたことがなかったのだ。


「結婚生活は十年を経たずして破綻、私は逃げるように家を出た。まだ赤ちゃんだった陵介だけを連れて……」

「え……俺だけ? その……兄さんは……?」
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