清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ――兄さん……か。


 自分の兄とはどんな人物なのだろう。

 今まで一人っ子として育ってきた加賀見には、その言葉はむず痒く、不思議な気持ちにさせられるものだった。


「それでね」

 しばらくして、母が声色を明るくさせて口を開く。

「陵介の話もしたの。今は独立して、そっちにいるのよって。そうしたら、ぜひあなたを自分の会社に迎えたいって言ってくれて」

「え?」

「陵介には自分の右腕になるくらいのポストを与えたいって。離れていた分、これからは兄弟力を合わせたいって言ってくれてね」

「いや……ちょっと待ってよ」

「お母さんは、ぜひそうして欲しいって思うわ」

 母は戸惑う加賀見の様子はよそに、力強く「陵介お願い、考えてみて」と付け加えた。


 母は昔から、こうと決めたら周りが見えなくなるタイプだ。

 それにきっと今は、長年心のしこりとして残っていた兄と和解することができて、気持ちが高ぶっているのだろう。


 ――その気持ちはわかる。よくわかるけど……。


 加賀見は軽くため息をつくと、母を落ち着かせるようにゆっくりと声を出した。


「母さんの気持ちはわかるよ。ずっと兄さんの事が引っかかってたんだろう?」

「えぇ。そうなの……」

 母の声は涙ぐんでいる。
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