清くて正しい社内恋愛のすすめ

心を砕く

「どういうこと……?」

 穂乃莉は呆然とした足取りで廊下を進む。

 途中、正岡に声をかけられた気がしたが、そのまま返事をすることもできずに自分の部屋へと向かった。


 穂乃莉は部屋の扉を開けると、バタンとベッドにうつ伏せに倒れ込む。

 頭の中では、色々な感情とともに、東雲の話がぐるぐると回っていた。

「どうしろって、いうのよ……」

 穂乃莉は、馴染みのある実家の光沢のあるシーツをギュッと握り締めると、顔をうずめながら「わぁっ」と声を上げた。


 中庭の前で「そうそう」と振り返った東雲は、口元を引き上げながら穂乃莉を静かに見つめていた。

「穂乃莉さんの恋人の加賀見陵介くんですが、彼は僕の弟なんです」

 突拍子もない東雲の言葉に、穂乃莉は眉を潜めながら首を傾げる。

「お……とうと……?」

 言われた言葉の意味が全く理解できない。

 キョトンとその場に立ち尽くす穂乃莉を見て、東雲は肩をすくめると小さく笑った。


「驚いたでしょう? 僕だって驚きました。幼い頃別れた弟に、こんな形で出会うとは思ってもみなかったですから」

 東雲はそう言うと、中庭の方へと目線を向ける。
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