清くて正しい社内恋愛のすすめ
「ま、待ってください。加賀見は……加賀見はこのことを知っているんですか!?」

 詰め寄る穂乃莉に、東雲は小さく首を傾げる。

「もうとっくに知っていると思いますよ。そして陵介は、すでに決めているはずです。あなたに義理立てする必要もないですし」

「どういう……ことですか……?」

「だってどのみち、二人の恋愛は……」

 東雲はそう言うと、小さく肩をすくめる。


「あなたが退職するまでの、契約恋愛だと聞いていますから」

 東雲の言葉に、穂乃莉は凍り付いたようにその場に立ち尽くす。

 契約恋愛のことは、誰にも話していない。

 それなのに東雲が知っているということは……。


 ――加賀見が……話したってこと……?


 愕然とした顔つきで動けない穂乃莉の様子を見て、東雲がくすりと笑いながら顔を寄せた。


「でも安心してください。穂乃莉さんの気持ち一つで、あなたもこちら側の人間になる。また“加賀見くん”と一緒に、仕事ができますよ」

 東雲は穂乃莉の耳元でそうささやくと、「良い返事を待っています」と告げて、秘書とともに颯爽と玄関をぬけて行ったのだ。
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