清くて正しい社内恋愛のすすめ
「お嬢様。人は結局、話をしないと分かり合えないものです。言わなくてもわかるでしょ? というのは単なるおごりです」

 穂乃莉は正岡が何を伝えようとしているのかわからず、戸惑いながら小さく首を傾げる。

 正岡は握った穂乃莉の手に力を入れると、にっこりとほほ笑んだ。


「東雲社長に何を言われたのか、私は存じ上げませんが、泣くほど苦しいなら、真正面からぶつかってみなさい。それで砕けたら、爺が慰めてあげますよ」

 正岡は口元をゆっくり引き上げると、細めた目を潤ませながら静かにうなずいた。

 その顔を見ながら、穂乃莉ははっとする。


 ――そうだ……。私は、加賀見がどう思っているのか、何も聞いていない。


 東雲のことだけじゃない。

 契約恋愛のこと、加賀見が伝えたいと言っていたこと。

 それらを何も聞かずに、勝手に一人で結論を求めて先走っていた。

 加賀見に向き合わずに、一人で関係を終わらせようとしていたのだ。


 ――私は加賀見に、自分の気持ちすら伝えられていないじゃない。


 穂乃莉がバッと顔を上げると、正岡は笑顔で穂乃莉の荷物を差し出した。

 そこには穂乃莉の鞄とジャケットと共に、新幹線のチケットが添えられている。
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