清くて正しい社内恋愛のすすめ
 白戸は穂乃莉の勢いに押されて、後ろによろめく。

「痛い! ちょっと! 何するんですか!?」

 大きな声を上げる白戸に、穂乃莉ははっとすると、慌てて力を緩める。

 白戸は穂乃莉の手を振り払うと、大袈裟に掴まれた手をさすった。


「……ごめん」

 穂乃莉は小さくそう言うと、フロアに戻ろうと足を出した。

 でも、しばらく進んだところで、ぴたりと足を止める。


「白戸さん。あなたは人と、本気で向き合ったことあるの?」

「はい?」

 ゆっくりと振り返った穂乃莉に、白戸は怪訝な顔を向けている。

「本気でぶつかる勇気がないから、自分の恋愛でさえ他人任せになるんじゃないの?」

「何言ってるんですか!? そんなこと……」

 白戸は穂乃莉から目を逸らすと、くっと下唇を噛みしめた。

 穂乃莉は正面を向くと、まっすぐに白戸の顔を見据える。


「私はこれから、加賀見に自分の気持ちを話すの。正々堂々と勝負しないなら、二度と邪魔しないで!」

 穂乃莉はくるりと背を向けると、足を鳴らしながら休憩スペースを出て行った。
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