清くて正しい社内恋愛のすすめ
「私ね、時々思うの。お母さんってどんな温かさなんだろうって。私の記憶には、お母さんって残ってないから……」

 突然そんな話をする穂乃莉に、加賀見は身体を前のめりにすると、穂乃莉の顔を覗き込む。

「穂乃莉? 実家に帰って何があった?」

 加賀見は手を伸ばして、穂乃莉の両腕をギュッと掴むと小さく揺すった。

 加賀見の瞳に覗き込まれ、穂乃莉の目には次第に涙がいっぱいに溜まっていく。


「あのね、先に聞いてもいい……? 加賀見が今日話したかったことって、東雲さんとのこと……?」

「え?」

 加賀見は驚いたように、小さく目を開いた。


「もしかして、俺と東雲社長の関係のこと、聞いたのか……?」

 穂乃莉は下を向いたまま、こくんと首を縦に振る。

 加賀見は一瞬驚いたように息をのんだ後、小さくため息をつくと、うつむく穂乃莉の顔を下から覗き込んだ。


「穂乃莉。まずは何があったのか、全部話してくれないか?」

 加賀見の声は落ち着いている。

 穂乃莉はそっと顔を上げ、加賀見の顔を見つめると、昨日の出来事をぽつりぽつりと話し出した。
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