清くて正しい社内恋愛のすすめ
 頭の中に昨夜(ゆうべ)の出来事が、浮かんでは消えていく。

 まるで物語でも話すように、穂乃莉は淡々と声を出した。


 負債を抱えた久留島不動産が、東雲の財力を使って土地を買い占めていること。

 東雲は買った土地で巨大スパ施設の建設計画を立てており、その影響で本店や他の旅館の経営が厳しくなりそうなこと。

 開発を止める条件として、穂乃莉と久留島グループを欲しいと言われたこと。

 そして、東雲と加賀見の関係のこと……。


 穂乃莉は一旦口を閉ざすと、静かに目をつぶる。

「みんなの想いを考えて、私は東雲に行こうと決めたの。でも正岡に(さと)されて気がついた。決断する前に、加賀見に自分の気持ちを伝えなきゃって……。だから今日、ここに来たの……」

 穂乃莉の話を聞き終えた加賀見は、しばらく固まったようにじっと佇んでいた。

 それから拳をぐっと握り締めると、怒りを抑えきれない様子でドンっと自分の膝を叩く。


「なんだよ、それ……。大勢の人を巻き込んだ上、汚いやり方でお前を自分のものにしようだなんて……。まるで俺に母親を奪われたと思い込んでいる東雲社長の、俺への当てつけみたいじゃないか」
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