清くて正しい社内恋愛のすすめ
「なぁ、穂乃莉」

 しばらくして加賀見はそう名前を呼ぶと、穂乃莉の肩を支えながら真正面を向かせる。


「穂乃莉が今日、俺に伝えたかった自分の気持ちって何?」

「え……? そ、それは、このバックチャームを渡して……」

 そう言いながら、急に恥ずかしさが込み上げてきて、穂乃莉はもごもごと口を動かす。


「バッグチャームを渡して?」

 加賀見がさらに顔を近づけた。

「だ、だから……その……」

「ちゃんと、言葉で教えて」

 加賀見はにやりとほほ笑むと、穂乃莉の顎先を長い指でそっと持ち上げる。


「も、もう、ばか……」

「穂乃莉、ほら言って。じゃないとキスできない」

 加賀見は意地悪く、唇が触れるか触れないかの距離でぴたりと止まった。

 加賀見の温かい息づかいが、鼻先をかすめる。


「私は……」

 穂乃莉の顔は真っ赤だ。

「私は?」

 加賀見がささやく様に声を出した。


「私は、加賀見が好き……大好きなの。だから、この契約恋愛が終わっても、私は加賀見との恋を終わらせたくない」
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