清くて正しい社内恋愛のすすめ
「加賀見、白戸さんの話、聞いてあげて……」

「え? いいのか?」

 加賀見も戸惑ったように声を出す。

 今までの白戸の行動を考えれば、加賀見が身構えるのもわかる。

「うん。お願い……」

 穂乃莉は小さく声を出した。


 そしてそう言いながらも、穂乃莉には不安が襲ってくるのがわかる。

 正々堂々と向き合ってきた白戸は、とても綺麗だったのだ。


 ――大丈夫……。私は加賀見を信じてる。


 穂乃莉は大きく自分にうなずくと、二人からそっと離れてエントランスの壁際に寄った。


 白戸と向かい合って立つ加賀見の顔が遠くに見える。

 白戸は背中しか見えず、どんな表情をしているのかはわからない。


 加賀見が首を傾げながら白戸に何か言っている。

 白戸は一旦うつむいた後、加賀見を見上げるようにまっすぐに頭を上げた。

 加賀見は少し驚いたような顔を見せていたが、しばらくして口元が動くのが見えた。


 ほんの数分のことなのに、何時間もその様子を眺めているような気分になる。

 胸が苦しくなって深く息を吐いた穂乃莉は、加賀見に大きく頭を下げた白戸が、こちらに小走りで駆けてくる様子が目に入って顔を上げた。


「久留島さん」

 声をかけてきた白戸の目には、溢れそうなほど涙が溜まっている。
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