清くて正しい社内恋愛のすすめ
「穂乃莉?」

 加賀見は不思議そうな顔で穂乃莉の様子を見ている。

 穂乃莉はそんな加賀見を見上げると、にっこりとほほ笑んだ。


「ねぇ、加賀見。私は嬉しかったんだよ? 私が大切にしているこの中庭の存在を、加賀見が覚えていてくれたことが」

 穂乃莉は再び中庭に目線を向ける。

 いつも一人で星空を見上げていたこの中庭。

 それを今は加賀見と並んで見つめている。

 それだけで、穂乃莉の心は十分満足だった。


「私だけの思い出の中庭は、これからは加賀見との思い出の中庭になる。そしてこの星空ツアーの企画に関わってくれた人たちみんなや、参加してくれるお客様との、思い出の中庭になるの」

 穂乃莉はそう言うと、加賀見の顔を正面から見つめるようにまっすぐと立った。

「加賀見のおかげだよ。本当にありがとう」

 にっこりとほほ笑む穂乃莉の瞳を、加賀見はじっと見つめている。

 そして穂乃莉の手をギュッと力いっぱい握り返した。

「穂乃莉、俺もありがとう」

 それから二人はしばらくの間、その大切な中庭を静かに並んで眺めていた。
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