清くて正しい社内恋愛のすすめ
「へ……? あ、うん。わかった……」

 穂乃莉はごくりと食事を飲み込むと、慌ててぎこちない声を出す。

 そうか。たとえ二人の想いが通じたといっても、正岡たち久留島の人たちは二人の関係を何も知らない。

 まさか加賀見を、穂乃莉の部屋に泊めるわけにはいかないだろう。


 ――そりゃ、そうだよね。


 穂乃莉はふと残念な気持ちを抱えた自分にドキッとすると、照れた顔を隠すように慌てて再び口に箸を運んだ。


 しばらくして、穂乃莉が食事を終えたころ、コンコンと扉をノックする音が聞こえる。

 顔を覗かせたのは、フロントの責任者のスタッフだ。

「お食事中に申し訳ありません。加賀見様が戻られましたが……」

「どうしました?」

 一瞬口ごもる責任者に、正岡が声を出す。

 穂乃莉も立ち上がると、小さく首を傾げた。


「それが……かなり酔っておいでで、会長様が抱えて連れて来られたので、先に部屋にお通ししました」

 穂乃莉は「え!?」と叫び声を上げると、正岡と顔を見合わせる。
< 355 / 445 >

この作品をシェア

pagetop