清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見が酔いつぶれた所なんて、今まで一度も見たことがない。


 ――加賀見がそんなになるまで飲むなんて珍しい……。


 穂乃莉は部屋を飛び出すと、そのまま加賀見を案内したという客室へと向かった。

 穂乃莉が客室の扉を小さくノックすると、中から「どうぞ」という太い声が聞こえる。

 そっと扉を開いた穂乃莉の目に飛び込んできたのは、ベッドに寝そべる加賀見と、その側に心配そうに立つ会長とその他組合の人たちだった。


 会長は穂乃莉の顔を見た途端、「穂乃莉ちゃん、本当にすまんのぉ」としわがれた声を出す。

「これは一体何が?」

 正岡が、スタッフに持って来させた椅子を会長たちに勧めながら首を傾げた。

「いやなぁ、この兄ちゃんがあまりに出来すぎてるんで、わしらも悪ノリしたというか」

 会長は大きく頭をかくと、豪快に笑った。


 どうも会長たちは、説明に来た加賀見を見た時、あまりに若いことと久留島本社の人間ではないことから、最初は少し舐めていたらしい。
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