清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ドギマギと戸惑う穂乃莉の様子をよそに、正岡は楽しそうに食事を口に運んでいる。

 穂乃莉と加賀見が恋愛中だということは、その後も誰にも言っていない。

 でもみんな、そういうことだろうと認識して、二人を見ていたのだろうか。


 穂乃莉は急に心臓がドキドキと駆け足で鳴りだすのを感じていた。

 “婿”というワードは、ドキリとするほど、穂乃莉に現実を突きつけている気がする。

 穂乃莉にとっての“結婚”とは、つまりはその後ろに控えている久留島グループを繋ぐということ。


 加賀見を好きになって、その想いが通じて、ずっと一緒にいたいと思って……。

 その想いの先に“結婚”があるのは当然なことだし、一時は自由な恋愛の末の結婚をあきらめていた穂乃莉にとっては、何よりも願っていることだ。

 でも“婿”という言葉が指すように、もうこれからは二人だけの問題ではなくなる。

 星空ツアーが成功して、久留島やこの温泉街を守ることができたなら、今度は二人の関係を祖母に認めてもらうという、最大の課題も残っている。

 それに……。


 ――加賀見自身はこの先のこと、どう考えてるんだろう……。


 穂乃莉は奥の席で笑っている加賀見の横顔を、しばらくじっと見つめていた。
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