清くて正しい社内恋愛のすすめ
 改修工事も進んでいるため、中はいたるところに工事道具が置いてある。

 二人はその中を、手を繋ぎながら慎重に足を進めた。


「穂乃莉のおすすめ場所は?」

 加賀見が振り返り、穂乃莉は「うーん」としばらく考えた後、梅の木の下を指さした。


 ぽつんぽつんと置かれた石の上を渡り、小川のように流れる小さな水路を飛び越え、梅の木の前にたどり着く。

 ちょうどその根元にスペースを見つけ、二人は並んで腰を下ろした。

 辺りには、ほんのりと甘い梅の花の香りが漂っている。

 穂乃莉はそれを吸い込むように一旦深呼吸をすると、真上に広がる星空を見上げた。

 目の前には白く可憐な梅の花の先に、幼い頃と変わらない星空が広がっている。


「これは本当に特等席だな。誰にも教えたくないくらい」

 加賀見はそう言うと、ごろんと仰向けに寝っ転がる。

 穂乃莉はくすくすと笑いながら、加賀見に寄り添うように寝そべった。


 加賀見の長い腕が、穂乃莉を優しく抱き寄せる。

 加賀見から伝わる温もりと、ほんのりと漂う梅の香り、耳に届く緩やかに流れる水の音。

 そして目の前には無数の星々。
< 369 / 445 >

この作品をシェア

pagetop