清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穂乃莉は五感が満たされるのを感じながら、加賀見の腰に手を回すとギュッと抱きついた。

 トクトクと鳴る加賀見の鼓動を聞きながら、穂乃莉はそっと顔を上げる。

 今だったら加賀見の気持ちを聞けるだろうか。


「あのね、加賀見……」

 穂乃莉はドギマギと声を出すと、下から加賀見の顔を覗き込む。

 加賀見は小さく眉を上げると、穂乃莉に顔を近寄らせた。


「その……まだ星空ツアーも始まってないのに、こんなこと聞くのは変なんだけど……。私がトラベルを退職した後のこと……」

 穂乃莉はそこまで言って、はっと口を閉ざす。

 いきなり“結婚”や“婿”なんてワードを、ここで言っても良いものなのだろうか?


 ――それって、むしろプロポーズになっちゃうんじゃ……!?


 トラベルを退職した後も、ずっと一緒にいたい。

 その気持ちは加賀見も同じだと、自信を持って言える。


 でもそれが“結婚”にまでつながっているのかはわからない。

 いきなり女性にそんな言葉を言われたら、世の男性は怖気(おじけ)づいてしまう、なんて話を聞いたこともあるような、ないような……。
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