清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見は穂乃莉の髪をそっと持ち上げると、耳元に唇を寄せた。

「今夜は、枕持って来いよ」

 加賀見が久しぶりに見せる腹黒王子の顔で、にんまりと口元を引き上げる。

「も、もう……ばか……」

 加賀見の胸元をグーで小突こうとした穂乃莉の手は、いとも簡単に加賀見に捕らえられた。

 なんでもお見通しのような、加賀見の深い瞳に見入られて、穂乃莉は耐え切れずにそっと目を閉じる。


 ――あぁ、また完敗だ……。


 いつだって穂乃莉は、加賀見の手のひらで転がされるように、心を掴まれてしまうんだ。

 そして目を閉じた穂乃莉の唇に降ってきた加賀見のキスは、最後に食べた琥珀糖(こはくとう)の、ほんのり甘い味がした。



 穂乃莉と加賀見がトラベルに戻ってから数日後、中庭の改修工事の終了と共に“星空プロムナードツアー”の開催がスタートした。

 当初は宿泊客へのサービスとして始まったツアーだったが、久留島グループのプロモーションと、利用者のSNSなどを通じてたちまち話題を呼び、チケット制で宿泊客以外も受け入れるようになってからは、予約が取れない程の人気ツアーとなっていったのだ。
< 372 / 445 >

この作品をシェア

pagetop