清くて正しい社内恋愛のすすめ
 リポーターがマイク片手に指した場所は、久留島本店の提灯(ちょうちん)がかかる正面玄関だ。

 それを見た途端、会議室内にはどよめきが起きる。


 ――星空……ツアー?


 東雲も何事かと一瞬目を見開いた。


 リポーターは足取りも軽やかにロビーをぬけると、日本庭園が見えるガラスの前に立つ。

 東雲は目を細めると、じっと映像に目をこらした。


 ――あれは、中庭か……?


 久留島本店に行ったときに、東雲も一瞬目を奪われた中庭。

 よく手入れされた日本庭園で、久留島本店のシンボルとも言える素晴らしい中庭だった。

 でも今、目の前の映像に映っている中庭は、明らかにこの前見た時とは様子が違う。

 庭の中には、その景観を邪魔しないように複数のウッドチェアが置かれている。

 そして、立ち入り禁止と思われた庭に、多くの人が入って楽しそうに過ごしているのだ。


『何が話題沸騰かと言いますと。この中庭、昼間はこのように美しい日本庭園を散策できるスポットなのですが、夜になると全く違う顔を見せてくれます。その映像がこちらです』

 スクリーンには、夜の中庭を映した映像が流れだす。

 そこには瞳をキラキラさせながら星空を眺める、観光客の顔が映っていた。
< 375 / 445 >

この作品をシェア

pagetop