清くて正しい社内恋愛のすすめ
 まさかこんなに秒単位で、状況が変わることがあるのだろうか。

 東雲は静かに目を閉じていたが、くくっと声を漏らすと、肩を揺らして笑い出した。


「しゃ、社長!?」

 企画室長が声を裏返らせる。

 東雲はゆっくりと立ち上がり、自分を見つめている社員たちをぐるりと見回した。


「今後東雲グループは、久留島本店周辺の温泉街の開発計画を一から見直しし、旅館組合と協力の元、よりよい地域づくりに配慮した開発にシフトチェンジする」

 東雲の突然の方針転換に、その場は息をのんだように静まり返る。

「各々すぐ部署に戻り周知、対応に移れ。また広報部へ、この件を大々的に社外へ正式発表するよう伝えること。以上」

 東雲のよどみのない声を聞いた途端、社員たちは大きく声を出してそれぞれの部署に駆けだしていった。


 斎藤と二人きりになった会議室で、東雲は椅子にドサッと腰かけると、目を閉じて天井を仰ぐ。

「社長、良かったのですか……?」

 斎藤が伺うように声を出した。

「良かったも何も……ここまでされたら、潔く引き下がるしかないだろう? でもまぁ、最初からわかってた事かも知れないな」
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