清くて正しい社内恋愛のすすめ
 東雲はそう言うと、にっこりとほほ笑んで斎藤を振り返った。

「王子様を見つけたお姫様は、そんなにやわじゃなかったってことだ」

 くすりと肩を揺らす東雲に、斎藤はあきれた様子でため息をつく。


「全く社長も強がって……。慣れないやり方するからですよ」

「悪役には、なり切れなかったってことか……。まぁいいさ。斎藤、すぐに久留島本社へ連絡を」

「はい。かしこまりました」

 斎藤は小さく頭を下げると会議室を出ていく。


 パタンと扉が閉じる音を聞きながら、東雲は今日初めて深く息を吐いた。

 まさか久留島が、あの状況からここまでの行動に出るとは思ってもみなかった。

 それもきっとみんな、穂乃莉の隣に加賀見の存在があっての事だろう。


 ――自分の弟ながら、脱帽するよ……。


 東雲の瞼に、ふと幼い日に別れた加賀見のあどけない顔が浮かぶ。

 悔しいが、自分は二度も弟に負けたのか。


「強引な方法じゃ、愛はつかめないってことか……。それは愛する女性(ひと)も、親も一緒だな……」

 東雲は自分を(あざけ)るように小さく息をつくと、そっと静かに席を立った。
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