清くて正しい社内恋愛のすすめ
「大丈夫だよ」

「え……?」

「穂乃莉のことは俺が守るんだから、何も心配はいらないってこと」

 穂乃莉は、加賀見とのことで真面目に悩んでいるのに、加賀見はなんだか楽しそうだ。

 頭どうしをくっつけているから、穂乃莉には加賀見がどんな表情をしているのかは見えない。

 それでも、きっと今はにんまりと笑っているんだろうことは伝わる。


「もう、私が何にため息ついたかわからないでしょう?」

 穂乃莉は顔をうつむかせたまま、少し口を尖らせて声を出した。

「わかるよ」

「嘘」

「嘘じゃない。穂乃莉のことは、何でもわかる。だってずっと見てきたから」


 そう言った途端、加賀見は穂乃莉のうつむいた顔を下から覗き込むと、そっとキスをした。

 ふいに触れた唇から、加賀見の熱が伝わる。


「もう……ずるい」

「いいんだよ。魔法だから」

 加賀見のキスはずるい。

 肝心のことは何も教えてくれないのに、もう穂乃莉の心はこんなにも溶けて、不安なんて消えてしまってるんだ。


 それから二人は顔を見合わせてぷっと吹き出すと、肩を寄せ合って笑い声をたてた。
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