清くて正しい社内恋愛のすすめ
「おばあさま!」

 本店に到着した穂乃莉は、正岡や従業員と簡単に挨拶を交わし、すぐに祖母の部屋に駆け込む。

 祖母はいつものように、老眼鏡をかけて執務室のデスクで書類に目線を落としていた。


「穂乃莉!」

 中に駆け込んできた穂乃莉の顔を見ると、祖母は老眼鏡をテーブルに置いて立ち上がり、満面の笑みで両手を広げる。

 穂乃莉はそのまま祖母の胸に飛び込んだ。

 祖母は少し痩せたのだろうか。

 自分よりもはるかに小さく見える祖母をソファに座らせると、穂乃莉は祖母の手を握りながら隣に腰かけた。


「仕事して大丈夫なの? もうしばらくは、ゆっくりしていた方が良いんじゃない?」

 心配そうに顔を覗き込む穂乃莉に笑顔を見せると、祖母はゆっくりと首を振る。

「もう大丈夫よ。あなたたちが久留島を守ってくれたんですもの。それにね、これから来客があるの」

「そう」

 祖母は、小さくうなずいた穂乃莉の頬に手を当てる。


「本当にありがとうね。あなたがいてくれたから、久留島もここの温泉街も守ることができたわ」

「おばあさま……」
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