清くて正しい社内恋愛のすすめ
 「食べて食べて」と花音にせかされて、穂乃莉は一口サイズのそれをフォークで取ると、パクっと口に含む。

 ジュワッと蕩けるように、中から味が染み出て、口いっぱいに広がった。


「なにこれ! すごく美味しい!」

 思わず声を出しながら振り返ると、花音が嬉しそうに笑い声を立てた。

「やっと、穂乃莉さんが笑ったぁ」

 想定外の花音の言葉に、穂乃莉は戸惑いながら首を傾げる。

「え……? 私、笑ってなかった……?」

「はい。ここに来てからずーっと、こんな感じです」

 花音は眉間に人差し指を当てると、渋い刑事のような顔をした。

 可愛らしい花音とその表情のギャップに、思わず穂乃莉はぷっと吹き出してしまう。


 確かに、今日ここに来てからというもの、ずっと心の中がモヤモヤしている。

 意識せずに、その心の内が表情に出てしまっていたのか。

 穂乃莉がそんな事を考えていると、また加賀見の席から「きゃはは」という笑い声が聞こえて来た。

 加賀見の隣の席の女性は、今にも抱きつきそうな距離感で加賀見に身体を寄せている。
< 39 / 445 >

この作品をシェア

pagetop