清くて正しい社内恋愛のすすめ
 穏やかに笑う正岡に促されるように、穂乃莉はソファにすとんと腰を下ろした。

 頭はまだ混乱したままだ。

「加賀見さんもどうぞ」

 正岡が加賀見に声をかけ、加賀見は穂乃莉の隣に腰かけた。


「どういうこと?」

 穂乃莉が見上げるが、加賀見は眉を上げてにっこりとほほ笑むだけで何も言ってくれない。

 するとデスクに戻った祖母が、おもむろに机の上に重ねて置いてあった束に手を伸ばした。

 あれは以前、お見合い写真だと祖母が言っていたもの。


「前にも話したでしょう? 穂乃莉のお見合いのこと……」

「ちょ、ちょっと待って!」

 穂乃莉は慌てて腰を浮かせると、祖母の言葉を遮るように声を出す。

 祖母はにっこりとほほ笑むと、重ねられたお見合い写真の束の一番上に置いてあるものを一つ手に取った。

 そして穂乃莉の向かいに腰かけると、そっとそれを差し出す。


「おばあさま。私、お見合いは……」

「穂乃莉。いいから、見てごらんなさい」

 祖母に半ば強引に手渡され、穂乃莉はしぶしぶお見合い写真を手に取る。

 それは茶色い上質な紙の台紙で出来たものだった。

 穂乃莉は隣の加賀見に気まずさを感じながら、そっとその表紙を開く。
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