清くて正しい社内恋愛のすすめ
 そして、写真の前に挟まれた薄い和紙をめくり、目に飛び込んできた顔を見た瞬間、穂乃莉は息を止めた。

「どういう……こと……?」

 写真に納まっているのは、どう見ても加賀見だ。

 いつものにんまりと笑った腹黒王子の顔ではないけれど、穂乃莉を守ってくれる大好きな加賀見の顔だ。


「……なんで?」

 穂乃莉は写真をギュッと胸に抱きしめると、隣で照れくさそうに、はにかむ加賀見の顔を振り返る。

「穂乃莉と契約恋愛することになった後、ここに来たんだよ」

「いつ!?」

「年末の出張の合間に」

 穂乃莉は必死に記憶をさかのぼる。

 資料室で加賀見と話をして、虫よけの契約恋愛をすることになって……。


 ――そうだ! あの後。年末なのに、加賀見は出張を入れていた……。


 穂乃莉が「あの時!?」と声を上げると、加賀見は楽しそうに笑いながらうなずく。


「あれは、もう年の瀬も迫った頃よね。トラベルで穂乃莉と一緒に働いている者ですって、加賀見くんが私を訪ねてきたの」

 すると祖母がゆっくりと話し出した。

「びっくりしたわよ。何事かと思ったら、突然穂乃莉の“婿選び”に立候補します、なんて言うんだもの」
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