清くて正しい社内恋愛のすすめ
「え!?」

 穂乃莉は驚いて目を丸くする。

 祖母はその時の様子を思い出すように、くすくすと肩を揺らした。

「自分は穂乃莉と契約恋愛をすることになったから、三ヶ月でそれを本物にしてみますって、私と正岡の前で宣言したのよ。だからお見合い写真を置いて行きますって。随分突飛(とっぴ)なことを言う子だと笑ったわ」


 祖母の話を聞きながら、穂乃莉はおぼろげな記憶をたどる。

 そういえば年末に実家に帰って来た時、祖母はお見合い写真を差し出しながら言っていた。

 『自薦・他薦さまざまよ。見てみる? 結構面白い子もいるわよ』


 ――あれは加賀見のことだったんだ……。


 そんな事、全く気がつきもせず、穂乃莉はお見合い写真を見ようともしなかった。

 愕然とする穂乃莉に、祖母が小さくウインクする。


「その時ね、私言ったの。あなたみたいな今時の子は『既成事実を作って穂乃莉をその気にさせるんでしょう?』って。久留島の大事な一人娘にそんなことはさせられない清い交際を続けて、三ヶ月で穂乃莉を本気にさせられたら考えてあげるってね」

 その言葉に、穂乃莉は再び驚いて加賀見を振り返る。

 だから加賀見は“清い社内恋愛”なんて言っていたのか。
< 392 / 445 >

この作品をシェア

pagetop