清くて正しい社内恋愛のすすめ
「その後何の音沙汰もないから、穂乃莉は他の人にでも恋したのかしらって思ってたわ」

 祖母の話を聞きながら、穂乃莉の脳裏に加賀見と恋愛をするようになってからの、加賀見の言葉が次々と浮かんでくる。

 まさか加賀見が、最初からそこまで考えて穂乃莉に契約恋愛を持ちかけていたなんて、思いもしなかった。


「それとね、私はあなたに義理立てするつもりはないから、穂乃莉に相応しいと思う人が現れたら、話は進めるわよって言ったの。結局、私が見込んだ東雲社長には、裏切られる形になったわね」

 そこで祖母は、口を閉ざすと小さくため息をつく。

 穂乃莉は祖母の顔をじっと見つめる。

 どんな形にせよ、祖母はいつでも穂乃莉のためを思っていてくれたんだ。

「おばあさま……」

 穂乃莉が口を開いた時、祖母がパッと明るい顔を上げた。


「今回のことで、やっと私も決心がついたわ。私は今期限りで、久留島グループの社長を退きます」

「そ、そんな! おばあさま!?」

 穂乃莉は加賀見と顔を見合わせると、驚いて祖母の元に駆け寄った。


 祖母が引退するなんて、そんなこと今まで一度も考えたことがない。

 やっと穂乃莉は、四月から久留島に戻るというのに……。
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