清くて正しい社内恋愛のすすめ

大きな決断

「一度に色んなことがありすぎて……」

 祖母の部屋を後にした穂乃莉は、泣きすぎて腫れた瞼を持ち上げて、隣を歩く加賀見の顔を見上げる。


 あの後、祖母には来客があるとのことで、穂乃莉たちは一旦退席した。

 祖母に加賀見との関係を認めてもらおうと意気込んでここに来たのに、結局一番驚かされたのは穂乃莉だった。


「まさか、お見合い写真を持って、おばあさまに会いに来てただなんて……。私が見るかもしれないって、思わなかったの?」

「もちろん少しは思ったよ。でも久留島社長が『たぶん穂乃莉は見ないわよ』って言ってた」

 加賀見がくすりと肩を揺らし、穂乃莉は「おばあさまったら……」とぷっと頬を膨らます。

 祖母は穂乃莉がお見合い写真を見ないのを承知の上で、あえて「見てみる?」と聞いてきたのだろう。


「でも内心、心配だったからさ。だから年明けの打ち合わせの時、聞いたんだよ。『そういうのって、一つ一つ見るのか?』って」

「え!? そうだったの!?」

 穂乃莉は今日何度目かの驚きの声を上げると、そのままはぁと肩を落とす。

 色々なところにヒントはあったのに、自分は全く何も気がつかなかった。


「ねぇ、なんで契約恋愛だったの?」

 しばらくして、穂乃莉はずっと疑問に思っていたことを口に出す。
< 395 / 445 >

この作品をシェア

pagetop