清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見はしばらく「うーん」と首をひねっていたが、「穂乃莉に恋愛を意識させるため……かな?」と小さく口を開いた。

「私に?」

「そう。だって穂乃莉は、一切恋愛する気なかっただろ?」

「する気がないっていうか……私はどうせ自由な恋愛はできないんだって、どこかで諦めてた」

 穂乃莉は小さくため息をつくと下を向く。


「だからだよ」

「え?」

「久留島のプレッシャーの中で膝を抱えてたお前を、自由にするためだよ」

「久留島の……プレッシャー……?」

 穂乃莉はそうつぶやきながら、静かに顔を上げる。


 幼い頃から自分を縛り付けていた“久留島を繋いでいく”という見えない重圧。

 いつの間にか穂乃莉はそれを受け入れて、反抗する気持ちすらもなくなっていた。


 ――加賀見は私を、そこから引っ張り出してくれたんだ……。


 穂乃莉が見上げると、加賀見はにんまりと口元を引き上げる。


「まぁだから、あのキスはいわばショック療法だな」

 加賀見がクリスマスイブの時と同じように、穂乃莉の腰に手を回し身体を引き寄せた。

「も、もう……ばか」

 穂乃莉は途端に赤くなった頬を、ぷっと膨らませる。

 すると笑っていた加賀見が、「それに」と急にまじめな顔を向けた。
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