清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見が東雲に入り、兄弟が力を合わせることを望んでいた加賀見の母。


 ――私が、その機会を奪っちゃったんだ……。


 急に穂乃莉の心を罪悪感が襲う。


「でもね、穂乃莉」

 加賀見はそう言うと、穂乃莉の顔を覗き込んだ。

「父さんがさ、母さんに話してくれたんだ。『陵介には、陵介の選んだ人生がある。親ができることは、それを信じて、ただひたすらに応援してあげる事じゃないのかな』って」

「お父さまが……?」

「そう。普段は無口な父親なんだけどさ。こういう時、血はつながってないけど、やっぱり親子なんだなって思ったよ」

 加賀見の話を聞きながら、穂乃莉の瞳は次第に涙で潤んでくる。


「それで、お母さまは?」

「納得してくれた。最後は俺のこと、応援するよって言って。本当は、東雲社長に連絡したかったと思うんだ。でもこんな状況だったし、我慢してくれて」

「そう……」

 穂乃莉の目からぽろぽろと涙がこぼれ出す。

 なんて温かい家族なんだろう。

 加賀見の両親もまた、穂乃莉を思っていた祖母と同じように、加賀見のためを思っていてくれるんだ。
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