清くて正しい社内恋愛のすすめ
「素敵な家族だね」

「まあね。でもこれからは……」

 加賀見はそう言うと、穂乃莉を抱きしめている手にぐっと力を込める。


「穂乃莉と俺も、家族になるんだから」

 はにかんだように笑う加賀見の顔を見ながら、穂乃莉の中に静かにふつふつと熱い感情が湧き上がってくる。


 加賀見と家族になって、いつかは新しい命を繋いで、自分たちも親になっていくのだろうか。

 その時、自分はどうしたい?

 穂乃莉は、加賀見の襟元を握り締めていた手をそっと緩める。


 ――私は加賀見と一緒に、その子をただひたすらに、応援してあげられる人になりたい。


 だからこそ……。

 まだ見ぬその子が、自由に自分の人生を羽ばたくために。

 余計な重荷は、今ここで置いて行かなければいけないんだ。


 穂乃莉は自分にうなずくと、まっすぐに加賀見の顔を見つめた。

「ねぇ、加賀見。私のわがまま聞いてくれる?」

「穂乃莉のわがまま?」

「うん。わがままなんて言葉じゃ言い表せない程、大きなわがままだけど……。聞いて欲しいの」


 それから穂乃莉と加賀見は向き合って話をした。

 加賀見は最初、わがままと言った穂乃莉の大きな決断に、ひどく驚いた様子だったが、最後は深くうなずいてくれたのだ。
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