清くて正しい社内恋愛のすすめ
 それからしばらくして、穂乃莉と加賀見が再び祖母の執務室へ向かうと、ちょうど来客者であろう人影が部屋から出てくるところだった。

 その姿を見て、穂乃莉も加賀見もぴたりと足を止める。


「東雲社長……」

 加賀見が小さく声を出し、驚いたような顔をした東雲がこちらを振り返った。

「驚きました。お二人もこちらに来られていたんですね」

 そう口を開いた東雲の顔つきは、以前ここで会った時とは全く違う穏やかな顔だ。

 東雲は脇に立つ秘書の男性に、先に車に行くよう声をかけると、静かに穂乃莉たちの前に立った。


「なぜ、あなたがここに?」

 加賀見が硬い声を出す。

「久留島社長に、先日の非礼をお詫びに」

 東雲はそう言うと、穂乃莉に顔を向ける。

「穂乃莉さん、あなたにもお詫びしたかったのです。私はあなたを脅したのですから」

 東雲のまっすぐな瞳に、穂乃莉は戸惑いながら「いえ……」と小さく声を出す。


 東雲はふっと息をつくと、廊下の先に見える中庭に目を向けた。

 やはりこうやって見ると、東雲のちょっとした表情や仕草は、加賀見にとてもよく似ている。


 ――だから初めて会った時も、そう思ったんだ。
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