清くて正しい社内恋愛のすすめ
「事前にお伝えしたように、今後土地の開発は旅館組合と話し合い、温泉街により良い形で開発できるよう進めていきます。穂乃莉さん、あなたのこともきっぱり諦めます」

 にこやかにそう言った東雲の瞳は、もうひどく冷たくも鈍く光ってもいない。

 穏やかで決断力のある、東雲グループの社長の顔だった。


「加賀見くんも、突然僕と兄弟だなんて聞いて、驚いたでしょう? でも、もうその話は忘れてくれて構わない。元々僕たちは別々の家庭で育ったんです。ただ血がつながっているという事実があるだけで、あとは他人と変わらない」

 東雲はそう言いながら、加賀見から目を逸らすと、少し寂しそうに笑った。

 加賀見は何も言わずに、東雲をじっと見つめている。


「あの、お母さんのことは……?」

 穂乃莉はたまらずに声を出した。

「母とのことは、こうなってしまった以上、何も意味がありません。元々は穂乃莉さんと加賀見くんを、揺さぶるために利用したまで」

「え……?」

「結局僕は、母の事を許せてなんかいない。問題は複雑なんです。根は深いところにある」

「そんな……」

 東雲の話を聞きながら、穂乃莉は思わず胸が苦しくなった。
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