清くて正しい社内恋愛のすすめ
 久留島グループ全体としてはしばらく祖母が会長として残るが、社長には本社で専務をしていた穂乃莉の父が就くことになった。

 ただ父の社長は名ばかりで、祖母が加賀見を徹底的に鍛え上げると豪語していたので、実質的には今後は加賀見が久留島グループを引っ張っていくことになるだろう。

 そして父も喜んでそれを望んでいるようだった。


「じゃあさ、加賀見くんは、いずれ久留島くんになるってことだよね」

 玲子の明るい声を聞いた途端、穂乃莉はドキッとすると加賀見と顔を見合わせる。

「ん? 違うのか?」

 相田が不思議そうに首を傾げた。

「あの、実は……」

 穂乃莉はみんなを見つめると、ゆっくりと口を開いた。


「ねぇ、加賀見。私のわがまま聞いてくれる?」

「穂乃莉のわがまま?」

「うん。わがままなんて言葉じゃ言い表せない程、大きなわがままだけど……。聞いて欲しいの」

 あの日、穂乃莉はそう言うと、加賀見の顔をまっすぐに見つめた。

 加賀見は穂乃莉の顔を覗き込んでドキッとする。

 穂乃莉の瞳には、今まで見たことのない程、固い決意のようなものが映っていたのだ。
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