清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ――虫よけにだって立場はあるもん。


 穂乃莉は背筋を正すと、花音の顔をじっと見つめ返した。

「う、うん……」

 花音は小さくため息をつくと、口を開く。

「キスしたって」

「は!? キ、キス!?」

 穂乃莉は思わず大声で叫んでしまい、慌てて口元を両手で押さえる。

「だから、あの二人はできてるって噂です」

 花音の話に穂乃莉は愕然とする。


 まさに今自分が、社内恋愛に引きずり込まれた加賀見のキス……。

 それを白戸も経験していたのだとしたら……。

 穂乃莉は映像を想像しそうになり、慌てて頭を大きく振った。


「でも“二人ができてる”ってとこは怪しいですよぉ。その噂って、白戸さん側から漏れてると思うんですよねぇ」

「……どういうこと?」

「だって、あり得ないんですもん」

「え?」

 キョトンとする穂乃莉に、花音は目を細めながら顔を寄せる。

「加賀見さんって、意外と心の声ダダ漏れですし」

「心の声って?」

「もぉー。聞こえてないのは、穂乃莉さんだけですよぉ」
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