清くて正しい社内恋愛のすすめ
「もういいだろ。その話は……」

「あー! 加賀見くんが照れてる!」

「かなりレアですね」

 玲子と卓にからかわれて、加賀見はキッと軽く睨みつけた。


 すると、じゃれ合うように騒ぐ三人を見ながら、花音がこそっと穂乃莉に耳打ちする。

「加賀見さん、入社した当時から、穂乃莉さんにゾッコンだったらしいですよぉ」

「え……? そうなの!?」

「はい♡ 国内チームじゃ有名な話ですからぁ」

 くすくす笑う花音の声に、穂乃莉は目を丸くすると、再び加賀見に目を向けた。

 加賀見は玲子や卓にギャアギャアとからかわれて、いよいよ迷惑そうな顔をしている。


 ――あぁ、私は何てもったいないことをしてたんだろう。


 穂乃莉は胸の前でぎゅっと両手を握ると、愛しい加賀見の前へと駆けだした。

 そして腕を伸ばして加賀見に思いきり抱きついた。


 ――こんなにも想ってくれていた人を、私は見ようともしていなかった……。


 加賀見があの時、契約恋愛をしようと言い出さなかったら、きっと自分はこんなにも胸を焦がして人を好きになることなんて知らずに、一生を終えていたのだろう。

 恋愛を諦めて過ごしていた、あの日の自分を叱りたいくらいだ。
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