清くて正しい社内恋愛のすすめ
「それでは皆さん! 今から皆さんは、この大切な瞬間の立ち合い人です! 耳の穴かっぽじってよーくお聞きください!」

 玲子は穂乃莉と加賀見に向かって、両手をひらひらと動かす。

 穂乃莉はこれから何が行われるのか全くわからないまま、ドギマギと加賀見を見上げた。


「穂乃莉」

 すると加賀見の声がシーンと静まり返った店内に響く。

 加賀見は穂乃莉の正面に立つと、穂乃莉の両手を大事そうに持ち上げた。


「順番が逆になったけど、これだけはちゃんと言わせて」

 加賀見の深い瞳に見つめられ、穂乃莉の心臓はドキドキと鳴り響き出す。

 すると加賀見はスッと腰をかがめて、穂乃莉の前に膝をついた。

 そしておもむろにスーツのポケットに手を入れると、小さなケースを取り出す。


「穂乃莉、愛してる。結婚しよう」


 加賀見はそう言うと、ケースを穂乃莉の手のひらの上にそっとのせ、両手で包み込んだ。

「え……」

 穂乃莉は息をすることも忘れて、自分の手元に目線を落とす。

 小さなリングケースの中では、キラキラと輝くダイヤの指輪が、とても優しい光を放っていた。


 どうしたらいいのだろう。

 もう目の前は、次々と溢れる涙でぼやけて何も見えない。

 穂乃莉はその場に呆然と立ち尽くしてしまった。
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