清くて正しい社内恋愛のすすめ
「ありがとう。陵介が来たら、連絡するわね」

「オーケー」

 父の背中を見送りながら、穂乃莉は母と二人で“星空スパ”と書かれた看板をくぐる。


 マーケットが見渡せる高台に設置されたここは、24時間いつでも利用できる足湯施設だ。

 開放的な円形の足湯は屋根の真ん中が大きく開いており、夜は(とう)でできたリクライニングチェアに腰かけ、星空を眺めながら足湯を楽しむことができると大人気になっているのだ。


「久留島の女将。こんにちは」

「女将、今度一つご相談したいことが……」

 通り過ぎるスタッフたちが、穂乃莉を見かけると笑顔で声をかける。


「穂乃莉さん、すごいのねぇ」

 その様子を見て、母が感心したような声を出した。

「ここは旅館組合が運営に関わってるのもあって、みんな顔なじみなんです」

 穂乃莉はくすりと肩を揺らすと、母と共に足湯の一角に腰を下ろした。


 母は足湯に浸かると、ふうと息をつきながらリクライニングチェアに寄りかかり、気持ちよさそうに目を閉じる。
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