清くて正しい社内恋愛のすすめ
 二人はしばらくの間、鳥のさえずりを聞きながら、やわらかい春の風にあたっていた。


「陵介から話は聞いていたけど、まさかこんなに素敵な温泉街だとは思わなかったわ。穂乃莉さんも陵介も、ここで立派に仕事しているのね」

 母は目を開けると、にっこりとほほ笑んだ。

「お気に召してよかったです」

「ええ、もちろん。この足湯もとても気に入ったわ。足湯って言うと普段着のイメージがあるけれど、ここは非日常的な癒しをくれる、極上のスパリゾートって感じね」

 うっとりと声を出す母の言葉を聞いた途端、穂乃莉は思わず涙がこぼれそうになるのを必死でこらえる。


「穂乃莉さん?」

 つい言葉に詰まった穂乃莉に気がついたのか、母が不思議そうな顔を向けた。

 穂乃莉は涙で潤んだ瞳を上げる。


「実はこの施設は、東雲グループの東雲社長のアイディアで作られた場所なんです」

「え……」

 穂乃莉の声に、母のはっと息を飲む様子が伝わった。

「東雲さんは、この温泉街に来られたお客様に最高の癒しを提供したいと、旅館組合と何度も話し合いを重ねてイメージを膨らませたそうです」

「絢斗が……?」
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